FRG-965
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カテゴリー |
広帯域ラジオ |
受信周波数 |
60MHz-905MHz
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電波形式 |
AM FM SSB |
電源電圧 |
13.8V DC |
消費電流 |
550mA |
サイズ(幅×高さ×奥行): |
180×80×220 mm 突起物含む |
重量 |
2.2Kg |
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掲載している症例と作業
1、感度を測定してみた
2、電源は入るが全く受信できない
3、感度の改善
4、受信周波数拡張 (HF受信コンバーター組込み含む)
感度を測定してみた
感度が悪いという噂があるので簡単な感度測定をしてみたのが下図のグラフ。
縦軸を逆数にしてあり値が下がるほど感度が悪いことを表現している。なおSSGとの接続に3mほどの3D2Vを使用したので多少は悪めに出ていると思う。
チューナーパック内は下記の4つのバンドで構成されている。
VHF1:60〜107MHz
VHF2:107〜230MHz
VHF3:230〜460MHz
UHF1:460〜905MHz
感度の比較
MODEL |
dBm |
IC-R5 |
-122 |
IC-R100 |
-121 |
IC-R2 |
-120 |
IC-R3 |
-119 |
IC-R10 |
-116 |
IC-R7100 |
-116 |
IC-R1 |
-115 |
FRG-9600 |
-113 |
IC-R2500 |
-113 |
IC-R8500 |
-113 |
IC-R9000 |
-113 |
IC-R9500 |
-113 |
AX-400 |
-113 |
IC-R20 |
-112 |
IC-R7000 |
-112 |
FRG-965 |
-111 |
AX-700 |
-103 |
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各社の資料からNFMモードの-12db_SINADを比較してみると左表のようになった。(dBm換算)
比較表の条件
・比較対象→広帯域受信機だけを比較する。
・測定値→バンド内で一様な感度でないため公称値を利用しdBμやμV表記はdBmに換算する。
・周波数→同一条件に近づけるため430MHz帯のNFMモードを代表値として比較する。
・測定条件→多くの機器で表明されている-12DB SINADの時の入力レベルで比較する。
所感 確かにFRG-965は上位ではないが海外モデルのFRG-9600が少しだけ上位になるのはIFの違いなのか?また、フロントエンドをしっかり造ってあるIC-R7000と比較して1dBmの差しかないというのも興味深くCATVチューナーとの感度差が主因とは云いがたい。
固定機よりもハンディー機の方が混変調などの「質」を無視したギリギリの高感度を作りやすく、感度だけを見ればアンテナ端子からRF素子まで効果的に信号を届けやすい構造の製品が上位になっているようだ。これは改造作業を行う時にパターンレイアウトや信号経路の部品の影響が支配的な事を体験するとそのように思えてくる。
例えば良かれと思ったシールドによる浮遊容量や最短配線した配線材の同軸長が分布定数となって特定の周波数を遮断してしまったりピークを造ったりしてしまうので、そうした影響をバンド外に追い出す設計も要求される。
なお広帯域受信機は広範囲な周波数に対してこうしたスペックを表明できるがトランシーバーを改造した場合は元のバンドから外れると感度低下が起こるので比較の対象にならない。 |
電源は入るが全く受信できない
症状観察
FMのザー音、AMのサー音、SSBのザー音はちゃんと出ていて切り替えもできている。
表示関係は全く問題なく選曲など各ダイヤルやボタンも機能している。
しかしどんなバンドでも信号は全く受信できない。
サービスポジション
最下部のマザー基板?に各種のユニットが垂直に刺さっている構造だ。
この当時の廉価版ビデオなどでは製造工程を簡略化するために落とし込みという手法が多用されたが、それに似ている。
要は上から順に詰め込んでいく方法で、後に修理するための作業性は考慮されていない。
下パネルを剥がすことが出来るので、そういう意味ではまだマシな構造で電圧チェックなどは容易に出来る。
診断
症状からIF以降は生きていると判断できる。
AM、SSBでノイズフロアが聞こえるのでAGC過多でもない。
SGから信号を入れても表示周波数の受信ができないのでフロントエンド関係の問題か。
チューナーパックの電源電圧は正常だがVCが-30Vとアンロック状態なので局発停止またはPLLのループエラーだと判断できる。
VC端子に指を振れるとなにやらビート音が不安定に聞こえたりするので局発は発振しているようだ。
PLLユニットの電源電圧のうち+5Vラインが+2.6Vしか無い。
+5V電源は3端子レギュレーターで作られているので計測するとレギュレーターの入力に13.5V、出力は+2.6Vとなっている。
作業方針
+5Vの3端子レギュレーター78L05をはずす。
+5Vラインが過負荷になっていないかどうかを確認する。過負荷なら負荷側を点検する。
過負荷によって78L05にダメージが有れば新しいものに交換し過負荷でなければ78L05の単独故障と判断して新しい物に交換する。
作業
78L05を取り外し負荷側の直流抵抗を確認すると約1.5KΩ程度なので過負荷ではなさそうだ。
手持ちの78M05に交換して出力が+5Vとなった事を確認。
SGから信号を入れて正常に受信できることを確認した。
Sメーターの振れがFMとSSBではバランスが悪いのと、PLL基準周波数およびIFなど全体的な確認と調整を行い完了とした。
例によって蛍光表示管の前にマゼンタ色のフィルターを取り付けて文字を白くしようとしたが手持ちのフィルターでは長さが不足したので諦めた。
他に問題は無いので今回は3端子レギュレーター78L05の単独不良だったようだ。
しばらくエージングをして78M05の発熱に異常が無い事を確認して作業終了とした。
感度の改善
受信感度改善の検討
自作のプリアンプを試しに付加してゲインを変えてみてイメージやIMDの様子と感度のバランスを試行錯誤した結果、プリアンプは装着しないこととした。
目標の効果としては感度を最大でも+10db程度に少し高めることを想定していたが、ゲインを下げてもFM放送のお化けが出るため、このフロントエンドは広帯域プリアンプの装着が適さないとの判断に至った。どうしても本機で満足できる受信環境を出したい場合は同調型のプリアンプを外部に接続する方が簡単だがバンド切り替えなどの大掛かりな機構を製作する必要がある。
また、FM放送帯のみを減衰させるなどの処置で総合的な広帯域満足を狙うには余分な回路を追加することが必要で、はたして全域にわたる平坦な高感度を出すことまでする必要が有るかといえば「ない」と結論付けたからだ。
そもそもの裸特性を改善する
入力信号経路の変更
元々の配線を変更することで改善できそうなので対策することにした。
配線パターンを検討したところ、パターンレイアウトによる感度悪化と配線材が支配的だったので配線経路の変更を行い400MHzで4dbmの感度向上を得ている。
1、アンテナ入力経路のカップリングのC02をパターンから浮かし、アンテナ経路の同軸ケーブルを直配線した。要は旧リレー経路のパターンを無視したことになる。
2、第一IF出力からバッファーまでの経路は細い1.5D2Vのような線材で長く引き回しているので少し太い2.5D2Vで最短配線に変更した。
3、この信号は3系統に分配されていてWFM・TV系を切り離すとNFM・AM・SSB系が向上するので、WFM・TVに至る経路に100Ωを挿入しNFM・AM・SSB系統を改善したままWFM・TV系に支障なく済むようにした。WFM・TVは強電界しか使用しないので影響ない。なおTVユニットは意外と影響が多いので外した方が良い。
その他の有効な処置としては、フロントエンド入力部のダイオードスイッチ回路を無視して直結にしてUHF(460MHz以上)を別入力にすることや、45MHzフィルター出力のダイオードスイッチを取り外すなどの方法が有る。
AM/SSB IFの変更
本機のAM系IFは固定L素子を使用したラフな同調回路で増幅している。同調周波数は計算上で約503KHzなので455KHzを増幅するには合わない。
10KΩの抵抗でダンピングして455KHzでも一応増幅するようになっているがAGCが浅い。
計算上は20pFを追加することで455Khz付近に同調するので、FETの容量や浮遊容量を加味するため50pFのトリマーを並列に追加して調整した。
もともと10KΩでダンピングしているが455Khzに調整できることによりAGCを深くすることが出来ている。
深いAGCの効果を最も簡単に表現すれば、AM-WでAIRなどを受信時に同じ信号強度でも以前よりバックノイズ(サー音)が静かになる。
ちなみにダンピング抵抗の値を上げると同調コイルがシールドされていないため異常発振を起こすので10KΩのままにしておいた方がよい。
AGCの変更FRG-965はSSBの時にRF-AGCのコントロールレベルを効かない方向に少し下げている。
RF-AGCは遅延型なので尖頭値での動作が見込めないためなのかIF-AGCだけで動作させているのだが、IF-AGCは強力な信号でないとゲインが下がらない定数になっているため全体のAGC動作としてはRF-AGCが支配的な動作をしている。
今回のIF部の変更にともないRF-AGCの時定数を速くしてSSBでもRF-AGCが効果的に動作するように変更した。
方法は簡単で、C04(10μF)を4.7μFに変更し、SSBの時だけのアクティブLとなるAGC_KILLのピンを浮かせるだけで完了する。
これで全てのモードでRF-AGCが動作し、全てのモードでSメーターの振れ方が一致する。
FMモードではAGCが効かない方が有利だが-90dBm以上の信号でないと有効でなく感度測定にも影響が無いためオリジナルの設計思想を尊重した。
なおTVユニットから出るキードAGCがAGC-SW端子に接続されているので切り離しておいた。
さらなるAGC改善
この処置でも通常の受信では問題ないが細かい事を云えばSメーターが振り始めるレベルが高いよう気がするのでQ6のベースに接続されているR31(68K)を235Kに変更した。半端な値だがこの値がちょうど良いようで、手持ちの抵抗でカットアンドトライをして470Kをパラにした。
ここまで来るとAGCに別回路を組んでIF用、RF用、Sメーター用を個別に調整できるようにする必要性を感じる。
フロントエンドの調整このCATVチューナーの内部ではVCO用のVCを利用してトラッキングを取ることでイメージ混信を避ける回路になっている。
この調整は非常にクリチカルなので触れないようお勧めするが今回は微調整を試みた。
まずVCOのコイルを調整してVC電圧と発振周波数の制御範囲を決める。
次に、そのVC電圧による可変容量ダイオードの同調が周波数を変更しても同調が追随するようにコイルを調整する。
調整といってもコアを回す訳ではなくコイルのスパンを微妙に伸縮させてバンド内を平坦にする作業なので非常に根気を要す。
NFMの改善NFMのIFは回路図で判るとおりシンプルなものだ。
国内モデルでは赤丸印で示すIFアンプが実装されておらず赤矢印の経路で短絡されている。
20dB_NQ法などで感度を表す際に微小信号からFMリミッターが利くほうが有利なので今回は回路図と同じに部品を実装した。
仕様の2SC1623T2BL6はhfeの大きなTrなのだが455KhzなのでFtよりHfeを優先し、特性が似ている汎用の2SC4081を使用した。
この処置による改善は有効だ。
現時点までの改善効果500MHz以上はNeedsが無いため、低い方を重点において調整している。
その他の変更
SSB音小:C13(3pF)→8pF
SSB音質改善:C16(0.1μF)→1μF
感度改善のまとめ
色々な改善を試みて、必要な周波数においては各モードとも当初の状態より裸特性が良くなった。
しかし本ページの冒頭に掲げた比較表にみられるように上位機種と同等にするためにはさらに改善が必要で内部ノイズを克服する必要がある。
この製品の回路構成で最もS/Nが悪いステージは残念ながらフロントエンドユニットだ。つまりフロントエンド以降の各ステージの感度や動作点を変えてSメーターの振れが良くなったとしても、その分RF-AGCが掛かる為にS/Nの悪いレベルに信号を埋没させるだけで受信時のS/Nが良くなる訳ではない。
今回は最終段階でRF-AGCの動作点を変えてノイズに埋没させないようにして回避したが、そもそも感度を向上させるということは微弱信号でもS/Nが良くなることを意味しているので、最終的にはフロントエンドの持つノイズが問題にならないレベルの大きな信号を入れるようにしなければならない。
しかし大きすぎるとMIXやIFが入力過大となり歪を生むので各段の動作点を変更しなくてはならない新たな課題が生じる。
その後、フロントエンド前に追加する形で10db程度の広帯域プリアンプを試してみた。
確かに感度は-125dbm程度まで改善するがフロントエンドのIPが高くないようで近接強信号によるマスク現象がでるので結局は外してある。
よく調整すれば現在のままで充分な感度と静かな受信が可能なのでこの状態が最もバランスが良さそうだ。
受信周波数の拡張
せめて50MHz帯が受信できないか、もっと何か有効活用できないかと考えて、HF帯を受信するコンバーターを組み込んだ。→
こちら
HFコンバーターを追加した場合のUHF付近の感度劣化は大きなものではないので信号系の切り替えリレーを交換する必要があるかどうかは再検討する。
受信周波数範囲の拡大はできないか・・・
HFコンバーターを付けAM放送から50MHzバンドまで受信可能となったが40MHz〜60MHzの感度が実用範囲でないため2つのアプローチで再検討した。
1、FRG-965の受信範囲をせめて50MHzまで下方に伸ばす。
CPUを外部コントロールするぞと騙しておいてPLLを制御する方法が有るが表示周波数とVCOの周波数関係が一致せず、きわめてユーザビリティーが悪い。
この手法はCPUが表示できる周波数は0MHz〜999.900.0MHzとなるがPLLループが動作するのは20MHz以上である。
また表示周波数と受信周波数に27.250MHzの差があるため操作性は最悪となる。
VCOのプリスケーラーが64と128しか選択できない素子のため、これ以上の改善は周波数変換などの余計な回路を必要とする。
2、60MHz以下はHFコンバーターでまかなう
追加したHFコンバーターにはLPFが入っていて30MHz付近から上では徐々に感度が下がり50MHzあたりで-10dbm程度でそれ以上ではさらに下がっている。
このLPF部分を60MHzまで上げれば50MHz帯付近の感度が改善し実質的な広帯域受信機となる。
現時点での妥当な方法としては上記2のHFコンバーター改造方式を採用する。
ボツにした受信範囲改造資料
FRG-965そのもので周波数の拡張を試みた。
まずCPUを外部コントロール状態にするために下図の場所を1KΩ1/4でプルダウンする。
この処置により周波数表示は0MHz〜999.9MHzとなるが、このままでは60MHz以下でバンド切り替え信号が停止するためVCOは動作しない。
次にバンドユニット内にジャンパー3箇所を追加する。
この処置は表示60MHz以下で停止したバンド切り替えデータをVHF1に偽装してフロントエンドを動作させるためのもの。
上記2つの処置によって、周波数表示は60MHz以下にできるが59.999.9MHzの時の受信周波数は約87MHz付近となり機能しているとは云えない。
つまりCPUが出すデータに対してVCOが期待する周波数ではなく別の周波数でロックしている状態だ。
ちなみに表示を50.0Mhzにした時の受信周波数は77.250MHzとなり、以下20MHzまでは27.250MHzのズレを伴った状態で平行移動する。
じゃあ表示を22.750MHzにすれば50.MHzが受信出来るじゃないかといえば確かにそうなるがフロントエンド内のVCOを制御するVC電圧が0V付近になるため、どこまで追随できるかは個体差がある。また表示20MHz以下は機能が停止する。
この方法はスマートな改造とは云えないため推奨しない。
調整資料