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修理って深いかも

【修理に求めるもの】
一般的には、過去に正しく動作していたが不具合が生じた品物を再び使えるようにする行為という簡単な概念で良いと思う。
しかし、所有者によって求める価値には色々な種類があるようだ。

    ・壊れていても修理はしない、誰も手を加えていないというコレクション的な価値
    ・他人の技術は信頼できないので、自分で作業することによる満足の価値
    ・どんな手法でもいいから、とりあえず使えれば良いという緊急避難的な価値
    ・良くも悪くも発売時と同等の回復をして法的にも安全性にも誰かの(メーカーの?)お墨付きが有る状態という価値
    ・弱い所は補強してガッチリ治すことで再発を防ぎ今後も使い続けられるという価値
    ・可能な改造を施し、強くてスペックの高い特別な一品を所有することの価値

自分の所有物をどんな水準で管理しようが自由だが、人様の品物に接する場合は所有者の意志には種類が有るということを理解し確認する必要がある。
そして確認した意志を満たす事が出来るなら明確な約束をして請け負えばよい。
そう、約束は絶対であるから満たされない事態が発生した場合は保障をする責任を負う覚悟が必要なのだ。




【スキル】
ところで、求められる価値を満たすにはスキルが必要になると思う。
一言で云えば、「最小の時間と資材で求められる価値を生み出す技能」ということになるのだが、そこには連続した「判断」と「作業」がある。

「判断」とは、診断の結果として何をすべきかを決定する事であり根拠を伴う作業指示とも云える。
診断では、設計思想を読み取り回路図では表現されないマウント技術や部品の故障モードなどを総動員しながら、自由な想像と観測で根拠の特定を行うわけで、それは「何をどうする」という作業の実現が前提となった想像であり、作業を行う事の難かしさによる制約が有ってはならない。
ホントは○○したいんだけど面倒だな、とかバラバラにしなきゃいけないのでやめておくなどという迷いは、効率という言葉を誤解した自己満足に過ぎず「所有者の意志を満たせない」事であり、そういう判断をする人は修理を請け負ってはならない人物だ。
お金を取って修理をしている人に聞いたところ、料金を決める時に覚悟するリスクは修理後の保証と長時間作業だそうだ。
さすがに商売をやっている人は、手抜きなどは考えず自分のリスクとして承知しているのだが全ての人がそうだとは限らない。


【作業スキル】
修理をするからには必ず何らかの作業が有り、しかるべき判断の結果を相違なく作業に変換するために技能、俗に云う「腕」が必要となる。
判断ばかり出来ても作業が出来なければ修理は完成しないので、当たり前に必要充分な作業が出来るように腕を磨いておくことが必要だ。

作業のスキルをイメージし易いように幾つかの例をあげてみる。

    ・ドライバーでISOネジを外して、再び取り付ける場合に最適な締め付けトルクで止める事ができる。
    ・ハンダ付けされた部品の取り外し、取り付け時に、パターンや他の部品に影響を与えないような道具の使い方ができる。
    ・ハンダや圧着処理された線材を付け直す時に、芯線にキズを付けずに不要な被服のみを切り取る事ができる。

あまり注目される事は無い作業例だし「そんな事をいちいち気にする必要なんか無いよ」という声も聞こえて来そうだが、修理はこれらの作業の積み重ねによるもので基本的な作業であるから質の良い修理を生む下支えなのだ。
今まで多くの迷宮入り修理品を診てきたが、大半は安易な作業ミスか二次故障が原因であり、最初の「判断」が大きく外れているものは少ない。
「判断」の論議は多く見かけ「作業」の論議はあまり見かけないのは、誰でも簡単に意図した作業が出来そうに思えるからなのだろうか。
ところが作業というのは意外と思い通りにいかないもので、ちゃんと出来るようになるには慣れが必要だ。
この慣れは繰り返し経験によるのだが「熟練」とは違い、人が息をするように無意識に、当たり前にできるくらいに慣れていなければならない。
そこまで慣れていれば「判断」された事を、必要充分な「作業」に変換することが可能になる。

蛇足ながら、必要充分な作業とは「判断」の忠実な再現ということだ。
最近の例で、トランジスターを交換したがベースが隣のランドとブリッジしたというケースでは、トランジスタを交換するという判断は実現したが隣とブリッジしたという余計な作業ミスは判断の中には無かったはずで、忠実な再現ではなかったわけだ。




【判断スキル】
修理を進めるには何をするかを決めなくてはならず、それを決定するための判断が必要だ。
およその順番をまとめてみる。

    ・所有者が申告する手順と同じ手順で操作をして症状の再現を試みる。
    ・症状が再現したらその挙動を冷静に全てを確認する。再現されない場合は何度でも繰り返し、決して分解してはいけない。
    ・申告された症状以外に問題が無いかを確認する。
    ・回路図などの資料を見て、その症状を起こす可能性のある部品の状態を想定する。
    ・想定を確認して主原因を特定するための測定ポイントと測定対象(電圧?電流?)を決める。
    ・ここで初めて実際に分解をして、決めた測定ポイントの測定対象を測定する。想定と異なっていた場合は再度の資料検討をする。
    ・想定と合致したら、その部品を取り外して部品単体の良否を確認する。
    ・不良部品が特定できたら新部品を取り付ける。
    ・測定ポイントが正常値に回復していることを確認する。

診断は最初の資料検討が最も大事であり、回復した事の確認までが診断と云えるかもしれない。
申告された症状が回復したことを確認した後に、他の問題が有れば同様の手順で回復を行う。
次に今後も安心して使ってゆくために弱った部品を交換しておいた方が良いと判断できる部品の交換を行う。
※このように一連の修理をスムーズに行うためには作業の基本スキルが空気のように存在しなくてはならない。
最後に、部品を交換したことによる部品スペックの変化に対する調整箇所の調整を行い品物全体として妥当な性能が出るように調整確認を行う。

よくありがちな話として、部品の○○は全部ダメになるので交換しておいた方がいいとかケミコンは抜けるので全部交換しておいた方がいいという傾向不良の情報が有る場合に、ろくに診断もせずに「きっとあれだな」と、いきなり交換を始める人が居るらしいが絶対にやってはならない行為だ。修理は結果オーライではない。
なにより所有者への説明ができないことは大きな問題ではないか。
ちゃんと適正な手順で診断すれば、その既知の部品に到達するはずなのであわてる必要もないし、結果として全体の復旧作業が速い。




【ノウハウ】
ノウハウというのは、コツとか検証された等価行為のことか。
品物を製造するときには作業工程が明確に決められていて、こういう順番でこういう作業をすれば必ずこうなるという検証に基づいている。
逆に云うと、手順を守らないと壊れることもある。

そういう手順をノウハウと呼ぶか、または接触不良のスイッチなどを復旧させるための化学的な処置の例を意味するとか裏技とかいろいろ有るようだ。
守らないと故障を誘発する可能性を秘めた作業手順はサービスマニュアルなどで読み取るか、自力で想像するかしか方法が無いかもしれないが、特に化学的な処置については経験者からの情報が役に立つことがあり、不良部品を入手新調できない時の信頼性保持には大いに助かる。

どんな場合があるだろうか、日々の作業で世話になるアイテムを眺めてみる。

    ・電気的接触不良を回復させる接点復活剤(界面活性剤)の利用方法
    ・瞬間冷却スプレーの利用方法
    ・サビを綺麗にするといわれるスプレー(主に油脂溶剤)の利用方法
    ・基板表面を綺麗にする各種溶剤の利用方法
    ・メカ部に塗布するグリス類の選択利用方法
    ・破損した樹脂部品の接着や再成型をする場合の溶剤や接着剤の選択利用方法
    ・主に外装などの汚れを落とす洗剤類の利用方法

結構いろいろ有ってまとまらないが、要は適材適所が有るのでいいかげんに使ってはならないということは想像できるのではないか。




【修理を依頼するとき】
メーカーは補修部品をいつまでも大量に保存し続けることは負担になるし、その負担を部品代に転嫁するのも限界がある為、一定の期間を過ぎると修理を受け付けなくなる。
しかし気に入った機器を長く使い続けたい希望は存在するので、いつかどこかの業者に修理依頼をする事になるだろう。
そういう時に信頼できる業者かどうかを判断するのは難しいと思うので、せめてこれだけは確認しようよという事が解れば結果に納得しやすいだろう。

    ・修理に着手する前に修理の内訳と見積額の内訳を知らせてくれるか。
    ・高額の修理になりそうな場合はキャンセルができるか。またキャンセルした場合の料金はいくらか。
    ・主原因とは別に将来のための手当てを行う作業を分けて説明してくれるか。
    ・長持ちさせるための使い方の説明をしてもらえるか。
   ・質問に対する回答やリクエストへの対応など、コミュニケーションがスムーズに行えるか。

なお、面倒だと思っても「総合点検」のような表現の修理依頼はしないほうが良い。明確に「○○の操作をすると○○になってしまう」というように具体的な表現をすることをお勧めする。総合点検修理を修理者目線で読み取ると「ずっと壊れない状態にすること」と解釈できなくもないので、物事の表現は常に具体的にした方がいい。技術のある業者なら堂々と事実を明確に知らせてくれるでしょうし、見積の時や修理完成時に全体の点検をするので逆に指摘をしてくれるだろう。
また実店舗でなくメール等での打ち合わせの場合はタイムリーで明解なコミュニケーションが取れることも確認した方がいい。
回答が遅かったり的外れだったり自分本位だったりすると見えない相手に対する不安材料になりやすいので大事なファクターではないだろうか。

このくらいの姿勢で問い合わせをすれば、自分に合うかどうかが判断しやすいのではないか。
回答が不明確だったり回答が得られないような業者は依頼しないほうがいいと思うが、みなさんはどう考えるだろうか。



【道具について】
修理をスムーズに進めるためには道具が必要だ。
まず最初の症状観察には周辺装置としてパワー計やダミーロード、モニタースピーカー、マイク、電鍵など無線機を動作させるための道具だ。
これら周辺機器のうち、パワー計とダミーロードはスペックに耐えるものが必要だが、それ以外は要するに動作できれば何でもよい。

次に必要となるのは診断のための計測器だろう。
自分が多用するのは、まあテスターはもちろんだが次いでSSGとスペアナが頻繁に登場している。信号がどうなっているのかを一瞬で知るためには非常に強力な道具といえるだろう。
デジタル回路部分の診断で、ロジックの動作がおかしい時にデジタルストレージオシロを必要とするが、デジタル回路は意外と論理故障をおこさないのでそうした機会はあまりなくて、特定のICの動作に疑問があったり改造のために動作の解析をするときくらいか。
信号の振幅はスペアナでも見えるし、歪具合も慣れていればスペアナで概略の観測ができるのでオシロで信号の振幅や歪を見ることも減っている。
もっともオーディオ領域ではオシロが優先するのだが最近はPCに機能を付けているので手軽なPCを使ってしまうことが多くなった。
これらの計測器は高価なので揃えるのは大変だが作業をスムーズに進めるには強力な支援をしてくれる。

その次は工具だ。
まず半田ごてやドライバーなどの一般工具なのだが、その中でも特に便利なのは半田吸い取り器だ。
コテ先で溶かした半田を電動ポンプで吸い上げるもので、CRやICなどの部品を交換するときに吸い取り網線よりも圧倒的に早く綺麗にハンダを取り除くことが出来、作業中のパターン面を綺麗に維持できるのが良い。またスルーホールを使用した両面基板などでは一発で吸い上げるので基板を壊すリスクが少ない。

使用頻度は低いが商用電源が無いアンテナなどの作業ではガス式の半田ごてがよい。
これが意外に温度を上げられるので太い線材や面積の大きい電極のハンダ作業にはワット数の大きな半田ごてと同じ効果を出せるし、何といってもコードが無いので自由な角度で使用できるのがいい。

その他の道具、たとえば六角レンチやスターレンチなど、それが無いとどうにもならない物は揃えておいた方がよい。
また最近の小型化が進んだ機器では小さな精密ビスが多用されているので、1mmとかのサイズでプラス・マイナス・ボックスのドライバーも必須になってきている。
そうしたビスは締め付けトルクが決まっていて力を入れすぎると簡単にネジ切ってしまうのでトルク設定付きのドライバーが必要だ。

修理の最終段階で必要なのは調整用のドライバーだ。
コイルや半固定ボリュームなどを調整するには、ちゃんと部品に合ったドライバーが必要だ。
RF部の調整にはセラミックドライバーが必要というのは良く云われることであるが、もっと重要なのはサイズと形状ではないか。
部品に合った形状で調整しないと部品を壊してしまうリスクが多く、とくにコアードライバーは合わないと簡単に割れてしまうので遵守する必要がある。
マイナスやプラス、四角など、けっこうな種類があり、いま手元にあるのは16種類だ。
その中にはネジ類で使う普通の金属ドライバーと同じ形状の物もあるのだが、調整には金属ドライバーを使用しないと決めることによって安全に調整作業ができるので、修理工程と調整工程では、机を変えるほどの世界を変える必要があるような気がする。

作業をスムーズに、かつ機器を痛めずに復旧させるにはこうした道具の必要性も忘れてはならない。





 


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